(4)
何も変わらぬ一日が始まる。だが、昨日と今日では何かが違っていた。
老人と過ごせるのもあと僅か。
男の死体が見つかれば、町の者がここへやって来るであろう。
しかし少年は逃げなかった。あと少し。あと少し時間が欲しい。

何事もなく一日が終わり、夕日を眺める。
オレンジ色に染まった山も空も家の窓も、全てが美しい。
ここでの暮らしは幸せそのものだった。

少年は改めて思う。自分が生まれてきた訳を。
少年は老人に出会うために生まれた。老人を守るために生まれた。
そのため一体何人、人を殺した?
殺された者にも家族はいたのだ。愛すべき家族を少年は殺した。
少年は人を殺すために生まれてきた訳じゃない。

「僕は大きな過ちを犯してしまった……」

少年は自分の罪の深さに涙した。
こんなに美しいい世界の中で、自分は何を間違えたのか。
「あと少し、あと少し時間を下さい……」

まだ、捕まるわけにはいかない。
少年は、たとえ神にそむいてでも、やり遂げなければ成らないことがあった。


翌日、その日はとうとう来た――。

少年が窓から外を眺めていると、大きな荷物を抱えた男が、ゆっくりとこちらへ向かって
来たのである。
年の頃は、40前後。
20年という歳月が少年を大人へ変えていた。
しかし、老人の面影を背負った男に、少年は迷わず飛び出していった。

「ユーシス! あなたがユーシスだね?」

いきなりの質問に、男は面を食らったように言う。
「そうだが、キミは?」
「ユーシス、お願いがあるんだ。もう、どこへも行かないと誓って!」
「え? 何を言ってるんだい?」
「父さんは目が悪いんだ。これからは父さんを手伝って、木こりになって欲しい!」

少年の必死の形相に、男は優しく微笑んだ。
「心配しなくていい。これからは、親孝行させてもらうよ」
その言葉に安心した少年は、そのまま男が来た道へ駆け出した。
「待って、キミ! キミの名前は!?」
少年は振り返ると、ぺこリとお辞儀をした。

「僕のことは、忘れてください」


ユーシスが懐かしい我が家のドアを開けると、年老いた父親が、震える手を差し伸べて
近寄ってきた。

「ユーシス、どこへ行っていたんだ。心配したぞ」
「父さん、今帰ったよ。遅くなってすまない。これからはずーっと側にいるよ」
父親は、ただただ頷いて、息子の背を何度もさすってやった。
「ユーシス、ここへおかけ。今、温かいスープを持ってきてあげよう」

そこへ町に住む、父親の古い友人がやってきた。
友人はドアを開けると、そのままユーシスの手を取る。

「やあ、ユーシス! 良かった。良く帰ってきたな。近頃この辺も物騒になってな。
町の奴が二人も殺(や)られたんだよ。何、さっき犯人も殺されたけどね。
これで安心して眠れるってものさ! でも、いつ悪い奴が流れてくるともわからない。
これからはオヤジさんを大切にしてやるんだよ」


            ――END――

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