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| 少年がこの家に迷い込んで一ヶ月が経った。 一ヶ月経ってわかったことは、老人の仕事は“木こり”だということ。 窓から外を眺めていると、馬に丸太を引かせた老人が山から下りてくる。 集められた丸太は斧で割られて、薪になった。 毎日が地道な作業の繰り返し。 一本置いては割り、一本置いては割る。やはり、かなり不自由しているのだろう。 少年は、こんな老人を置き去りにした息子に憤りを覚えた。 何かが間違っている。 国のためだか知らないが、その前に自分の親だ。家業を継ぐこともなく、 学校まで通わせてもらい、仕舞には老人をこんな山奥に残して、戦争に行ってしまった。 生きているかどうかもわからない。 誰からも愛されることなく生まれた自分と、父親にこんなに愛され生まれ育ったユーシス。 「何のために生まれてきたんだよ、ユーシス! アンタは優しい両親の許、望まれ、愛され、 幸せに育てられたんじゃないのか? 親を泣かせてどうする? 国を守ってどうするんだ?目の前にある幸せに気づけよ。ユーシス……、 オレはアンタが憎い。オレはサイテーだ。オレは……」 少年の胸に、自分が経験した数々の悲惨な思い出が駆け巡った。 「オレは何のために生まれてきたんだ? 親は何故、オレを生んだんだ? 捨てるくらいならいっそ殺してくれれば良かったんだ。サイテーだ。 オレもオレの親もサイテーだ」 少年はそのままベッドに体を投げると、枕に顔を埋めて嗚咽した。 窓の外では薪をワラで一束にくくり、それを馬車の荷台へ積んでいる。 老人は少年に一声かけると、そのまま町へ下りてゆき、そして夜には沢山の干し草と 食料を載せて、馬車は山の家に戻ってきた。 数日後――。 「父さん、僕に貸してみてよ」 少年は老人がら斧を受け取ると、小気味よく薪を割った。 カーンと、気持ちがいい音がこだまする。 もう、何日も前から言おうと思っていた言葉が、やっと出たのだ。 本当は気恥ずかしさで一杯だったが、それでも、老人の力になりたかった。 「父さんは休んでいていいよ。そうだ、美味しいスープを作ってよ。それまでに僕が片づけて おくからさ」 戸惑いながらも、少年の口からは優しい言葉が生まれてくる。 老人は息子の言葉に、心底喜んだ。 「ユーシス、何てことだ! こんなに嬉しいことははじめてだ! お前と薪を割るのが、私の 長年の夢だった。おお、ユーシス。これからもずっと私の側にいておくれ」 少年は幸せが目の前にあることに、はじめて気がついた。 手を伸ばせばそこにあったのに、今までどんなに遠回りをしてきてことか。 “愛すれば”いいのだ。誰かを愛すること。 「父さん、僕はこれからもずーっと父さんの側にいるよ。父さんと一緒に立派な木こりに なるんだ」 少年は老人の目に、光るものを見た。 老人は幸せだった。そして少年も幸せだった。 |
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| そんなある日――。 「じいさん、喜べや。お前の息子から手紙がきたぞ」 老人と少年が住む家に、一通の手紙を持った男が突如現れた。 ドアを開けるや否や、テーブルに座った少年と目が合う。 「誰だ、お前さんは?」 しかし瞬時に顔色が変わった。 「お、お前はヨハンの女房を殺したガキだなっ! まさか、じいさんまで!?」 「ユーシス、誰か来たのか? ユーシス?」 ちょうど部屋へ戻っていた老人は気づいていない。 少年は慌てて男の口を塞ごうとした。これ以上話されてはいけない。 老人に、息子が殺人犯だと知られてはいけないのだ。 いきなり立ち向かってきた少年に、男は恐怖を覚えた。 殺される……。咄嗟に思った男は大声を上げた。 「うわーっ、助けてくれ!」 「お願いだから黙って。お願いだ」 口を押さえようとする少年に、男は更に怯えた。殺人犯を前に、男は必死の抵抗だ。 以前の少年だったら軽く弾き飛ばせる勢いだったが、薪割りで鍛えた体は、逆に男の腕を 封じこめ、そのまま外へと押し出した。 「やめろ! 助けて、助けてくれーっ!」 「黙って。静かに、静かにして……」少年はうわ言のように繰り返した。 ……気がつくと、押し倒した男にまたがって、男の顔に自分のシャツをかぶせている。 少年は自分の掌を見つめた――。震える指に、少年は声も出ない。 その手で男が持っていた手紙を一気に読むと、少年の目からは大粒の涙が零れた――。 馬車で男を運び、川へ捨て、何事もなかったように家に戻る。 「ユーシス! 一体どこへ行っていたんだ。おお、ユーシス、どこへも行かないでおくれ。 私の目の届かない所へ消えないでおくれ」 老人は弱々しい腕で少年を抱き寄せた。 もし、今少年がいなくなったら、この老人は生きてはいけないであろう。 「父さん、僕はどこへも行かないよ。だから安心して」 少年は思いっきり老人を抱き寄せた。涙が止まらない。 この幸せをいつまでも失いたくなかった。そして少年は、自らの運命に泣いた。 ――父さん、やっと任期が終わりました。ダバトとムーラ間では、間もなく和解同盟が 結ばれるでしょう。これでようやく終戦です。2〜3日中に帰ります。ユーシス―― |
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