(2)

緑の草が畝(うね)を作って右に流れます。

一面に広がる草原を見下ろしながら、キイちゃんは空高く飛んでいました。

生まれた時から籠で育ったキイちゃんは空を知りません。

「気持ちいい!」

不意にどこからか可愛らしい歌声が聞こえてきました。

キイちゃんが地上へ目を凝らすと、白いパジャマを着た春ちゃんが

手を振っています。

「あ、春ちゃんだ。春ちゃーん」

キイちゃんは春ちゃんめがけて舞い降ります。

けれど風が邪魔して上手く飛べません。

「キイちゃーん、おいで」

春ちゃんが腕を差し延べているのに、

キイちゃんはクルクルと上空を旋回するばかりです。

しばらくすると、風が一瞬だけ止みました。

「今だ」

キイちゃんはとっさに羽をたたみ、地上に向かって急降下します。

あと5m、あと20p、春ちゃんの指は目の前です。

「あっ!」と思ったとき、眩しさにバランスが崩れ、目を閉じました。

かろうじて止まり木に掴まります。

ママが暗幕を外したいつもの朝です。

キイちゃんは春ちゃんを探しましたが、相変わらずベッドに眠ったままでした。


  ***


夜になって、キイちゃんは再び夢バクを呼びました。

「なんだい」

夢バクは面倒臭そうに現れます。

「昨日の夢なんだけど、なんであんなところで終わっちゃったの」

キイちゃんは事の顛末(てんまつ)を夢バクに話しました。

あと少しで春ちゃんの側に行けたのに、このままでは納得がいきません。

「ああ、あのあと、君は女の子と楽しそうに遊んでいたよ。

そっか。僕が半分夢を食べちゃったから君は夢を覚えてないんだね」

「ええ?」

キイちゃんは目を丸くしました。

「そうだよ。そういう約束だったでしょ。

これで一ヶ月は寝つきが悪いけど心配いらないから」

夢バクはまるで頓着(とんちゃく)しないふうに言うと、背中を向けました。

「待ってよ、バクさん。今夜も春ちゃんの夢に行きたい」

「ダメだよ。一ヶ月経たないと次はできない。来月また会わせてあげるよ」

言うだけ言うと、夢バクはパッと消えてしまいました。

  ***
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