夢見る小鳥

(1)

嵐の夜でした。

ベッドに眠る女の子は春ちゃんです。

春ちゃんはもう何日も目覚めていません。

窓がガタンと鳴るたび、黄色い小鳥のキイちゃんはびくんとします。

風が春ちゃんを連れて行ってしまいそうで怖いのです。

「春ちゃん、早く起きて僕と遊んでよ」

体の弱い春ちゃんにとってキイちゃんは大切なお友達でした。

もちろん、キイちゃんも春ちゃんが大好きです。

キイちゃんは春ちゃんの手の上で優しい声を聞くと、それだけで

幸せいっぱいになります。

春ちゃんが籠に戻そうとすると、決まって羽をばたつかせてこう言うのです。

「春ちゃん、もっと遊んで。もっと話して」

春ちゃんは困った顔をしましたが、一心に見つめるキイちゃんに吹き出して、

結局またお話を始めてくれるのでした。


「春ちゃんの歌が聞きたいよ。そうだ、歌ってみよう」

もしかしたら春ちゃんが起きてくれるかもしれません。

キイちゃんは大きな声で歌いだしました。

すると、声に気づいた春ちゃんのママが、

キイちゃんの籠に暗幕を掛けてしまいます。

「まだ眠くないよ。ママ、開けてよ!」

どんなに暴れても、これでは春ちゃんが見えません。

キイちゃんは悲しみいっぱいで天井を仰ぎました。


「何?」

頭の上に何かがいます。

キイちゃんが身を縮めると、それは四つ足の黒い動物でした。

「僕は夢バク。夢を食べて生きているんだ」

丸い体ににゅるっと長い鼻先。

目はつぶらで、どこかとぼけた顔をしています。

「あの女の子に会わせてあげるよ。ただし夢の中でね。

そこで相談だけど、実は僕、お腹がぺこぺこなんだ。

会うかわりに君の夢を食べさせてもらえないかな」

「夢を食べる?」

「食べるって言ったって、半分だけだよ。

君は次から半分の時間しか夢が見られなくなる。

けど安心して。一ヶ月もすれば治るから。

君はあの子に会えるし、僕はお腹がいっぱいになる。

ね、悪くない話しでしょ」

「春ちゃんに本当に会わせてくれるの?」

「もちろんだよ。こんなチャンス二度とないよ。ねえ、どうする?」

夢バクは楽しげに目を見開くとキイちゃんに詰め寄りました。

口許からよだれがこぼれ、キイちゃんは不快に眉間を寄せます。

でも、背に腹はかえられません。

「わかった。夢を食べていいから、春ちゃんに会わせてよ」

夢バクはニヤリと笑うと、何やら呪文を唱えだしました。


「夢眠(ユメミン)、夢眠(ユメミン)、おやすみ、キイちゃん」


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