(3)

ルイは砕け散った。
不意に頭上を青い鳥が旋回する。

「ハルシオン(伝説の鳥)……、」
――違う、あの鳥はフローラさ。見ててごらんよ、――

鳥が美しい声でさえずると、地表の草木がいっせいに踊る。
春の陽射しが僕を包み込み、永い眠りから目醒めていった。
緑に芽吹いた草の間に、アネモネはデージーが咲き乱れる。
ピンクに赤に薄紫……、可憐な色彩に包まれて、丘一面が花の絨毯となった。
ひと通り仕事が終わると、鳥は別の地に春を告げに行く。
最後に鳴いた一声が、何故かマミィの笑い声となって僕の心に木霊(こだま)した。

――フローラは行ってしまった。僕も行かなくちゃ……。――

声はするけど、瑠璃の姿は何処にも見当たらない。
「瑠璃、行っちゃいやだ。せっかく友だちになれたのに……。僕のそばにいてよ、」
僕は丘を見渡したが、瑠璃は姿を見せなかった。
「瑠璃、隠れないで出てきて。僕たちはもう、友だちだろう、」

――本当に……?――

「あたり前だろ、瑠璃。」
すると僕の中を一筋の西風が通り抜けた。花の香りにむせ返る。
目を開けると僕は丘の上に仰向けに寝転んでいた。
マミィのことで、僕は季節の変わり目に気づかなかったんだ。
時間はこうして過ぎて逝く……。

僕はダッフルコートを脱いで、街を見下ろした。教会(チャペル)のステンドグラスが
七色に反射する。――愛する僕の街が、穏やかに佇んでいた。

足もとに気配を感じて草を分けると、生まれたばかりといった小さな黒猫が僕の靴
を舐めている。瞳は青で、頸(くび)には深紅のリボンを巻いていた。
「瑠璃、」と呼ぶと、仔猫はニャ―と鳴いて、僕の手に頬を摺り寄せてきた。

                                    〈END〉


〈あとがき〉

ファンタジーな作品だったので、辛い方もいたと思います。

イタリアに行ったとき、「ビーナスの誕生」で有名なボッティチェルリ作の「春」を見て
この作品を書きました。森の中に佇むヴィーナスを囲んで、精霊たちがいます。
西風の神・ゼフィロスが息を吹きかけると、精霊たちの身体が花に包まれて、花の
女神・フローラに変化します。神秘的な光景でした。
ちなみに、「ヴィーナスの誕生」をまじかで見ると、その柔らかく温かな色彩に感動
します。ポストカードでは再現は不可能なので、実物を目に焼きつけてきました。

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