| (2) ――この子の名はルイ。キミの涙から生まれた。人は悲しみが深くなると ルイを生んでしまうのさ。―― (僕の涙……、) 少女の悲痛な無言の叫びが、僕の心と共鳴している。 だけど僕は、マミィを忘れることなんて出来ない。 ――忘れなくてもいいんだよ。乗り越えるんだ。そして今という時間を着実に 生きてゆく。生というのはそう云うものさ。―― 云いたいことは解かっているが、それでもマミィを捨てられない。 悲しみを乗り越えてしまったらマミィがかわいそうだ。 僕の声が聴こえたのか少年は隣に座り込み、僕の肩を抱き寄せた。 彼は攻撃的な風貌を反して、しなやかに僕を包みこむ。 触れ合う部分を通して、温かな風が吹き込んできた。 ――マミィはルイの中に閉じ込められているよ。このままでいると悲しみに 染まっていしまい、いずれガイア(大地の女神)に召されてしまう。地底深く 沈んで、大地の養分として吸収されるんだ。そして永い歳月を経て樹木の根 を育てる。それはそれで再生だけど……。 この惑星は生命と一体となって生存している。だから一人一人の清新な生き る力が必要なんだ。 戦争をしている国を考えてごらん。人々の心は悲しみにすさんで大地は枯れ 果てている。未来に希望を見出せず、悲しみのエネルギーは拡張するんだ。 大地は精気を失い、ウラノス(天の神)が救済する。再び生命がみなぎるよう に、悲しみのエネルギーを再生するのさ。 ……ルイの足もとを見てごらん。大地が吸収し始めている。 マミィが沈んでしまうんだ。キミはそれでいいの、―― 少年に促されて少女を見ると、彼女の輪郭は流動的にゆれて、つま先が液状 に融けている。まるで倒した洋杯(グラス)のように青い液体が大地に広がっ ていった。 彼女はただ泣いている。ルイと呼ばれる少女は悲しみから生まれて、笑うこと もなく泣再び悲しみへと消えてしまうのか、その身体は少しずつ形を崩していっ た――。 (やめて、瑠璃。彼女を止めて。ルイとマミィを大地に連れて行かないで!) ――僕じゃない、キミがそうさせたんだ。僕はただの後見人だから、ルイの 最期を見届けなければならない。―― (どうして……、瑠璃は悲しくないの? ルイが消えちゃってもいいの、) ――だったらどうしたいんだ。毎日泣いてばかりいるキミに何が出来る、―― 少年はまっすぐに僕を見つめる。青い玻璃(ガラス)の瞳を見ていたら、 不思議と身体のしこりがひとつずつ無くなっていく気がした。 風が温かい……。 周りの景色が少しずつ色を成す――。 (僕は……、泣くのをやめる。マミィを愛しているんだ。大地なんかに帰したり しない。この綺麗な天(そら)に昇ってもらう。) 僕の気持ちに少年は頷いて微笑んだ。 まるで光が射したような優しい笑顔だ。 ――それを言葉に出してごらん。さあ、―― なんだか喉(のど)がむず痒い。だけど、、僕は勇気を振り絞って叫んでみた。 「マミィ!」 僕の声が街中に響き渡る。僕はもう一度、大きな声で叫んだ。 「マミィ―、ごめんねー。もう大丈夫。だから……、だから、さようなら―。 元気でね……。」 すると急に少女の身体が変化し始めた。 液状だった足もとが、今度は粒子に変わってゆく。 僕は慌てて瑠璃に訊き返した。 「彼女はどうなるの? ルイはこのまま消えちゃうの? マミィは、マミィは 一体……、」 ――このこはキミの涙だから、キミが笑えばルイは消えてしまう。―― 「それじゃ、約束が違うじゃないか! ルイを、ルイを消さないで、」 ――心配しなくていい。それがルイの宿命さ。キミはルイとマミィを救ったんだ。 悲しみから解き放たれたルイは、精霊からフローラ(花の女神)に転生する。 そしてマミィはウラノス(天の神)に召されるのさ。―― ルイの身体はもはや無く、青い発光体となって渦を巻く。 泣いていた彼女の顔が一瞬笑ったとき、ルイは砕け散った。 |
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